本格的な秋が目の前だ。猛り狂っていた太陽が急に落ち着きを取り戻してきた。穏やかで過ごしやすい日々の到来だ。作物は実りの時期を迎える。房総の地でも一面に広がる水田が黄金色に染まりあっという間に刈り取られてしまった。東北や北陸に負けない美味しいお米ができるのは実証済みだ。県内の八百屋やスーパーには、なし、ぶどう、柿、栗、サツマイモ、きのこ…たくさんの旬のものが並ぶ。色とりどりの野菜や果物がテーブルを賑わすのもこの時期ならではだ。同じ過ごしやすい季節でも、厳しい冬を追いやって花を咲かせる 『希望』 の代名詞のような “春” とはまた違って、“秋” には地にしっかり足が着いているような心地よさがある。たくさんの実りをもたらした後の、散り際に見せる見事な紅葉も春の花々にけっして引けを取らない。これから冬に向かう覚悟のようなものも垣間見えて、その儚げで物憂げな空気もまた秋の魅力のひとつになっている。

  『食欲の秋』、『芸術の秋』、『スポーツの秋』、今回は秋の3大テーマをなぞってみようと思ったが、なんだか最初の 『食欲の秋』 で調子が狂ってしまった。格調高すぎる。(笑) これも 『芸術の秋』 ならではの魔力か。(笑) よし、気を取り直していこう。少々強引だが残るは 『スポーツの秋』 だ。久しぶりにスポーツの話で怪気炎を上げさせていただくこととする。

  今、とにかくスポーツがおもしろい。日本人アスリートたちが大活躍している。バレーボール女子ワールドグランプリでの6位、世界女子ソフトボール選手権での準優勝は記憶に新しい。手に汗握るがんばりは勇気を奮い起こさせてくれた。シンクロ・ワールドカップでの活躍も感動的だった。フリーコンビネーション、ソロ、デュエット、チームの4種目すべてでメダルを獲得した。やりきった人たちだけが見せる本当の涙が美しかった。陸上の地域別対抗戦ワールドカップでも見せてくれた。棒高跳びの沢野大地選手が5メートル70で2位、200メートルの末續慎吾選手は20秒30で3位、日本人が上位に入るのは難しいと言われる中距離でも女子5000メートルで福士加代子選手が3位に入った。この福士選手の強烈なキャラクターは成績と共に特筆ものだ。そして、ハンマー投げの室伏広治選手は優勝。今シーズン7連勝を飾った。室伏選手に至ってはまるで哲学者だ。佇まいや言葉の端々から本物の求道者のみが持つ風格が漂っている。まさに日本男児、文句なくかっこいい。

  フランスで行われた柔道のワールドカップでは男子5位、女子3位と振るわなかった。柔道のワールドカップは個人戦ではなく団体戦だ。この負けを次の世界選手権、そして北京オリンピックへのバネにしてくれればいい。男女ともフランスに敗れたが不思議ではない。フランスの柔道人口は日本の3倍、サッカー、テニスに次ぐ人気スポーツだと言われている。世界の柔道人口を考えると日本がどの大会でも好成績を収めているという方が不思議なくらいだ。伝統がなせる業なのか、日本人や韓国人、東アジア人の足腰の強さは天性のものということなのか。それにしてもアトランタ、シドニー、アテネとオリンピック3連覇を成し遂げた60キロ級の野村忠宏選手とバルセロナで銀メダル、アトランタで銀メダル、シドニーでは金メダル、アテネでも金メダルの48キロ級谷亮子選手は “驚異” の一言だ。このふたり、次の北京オリンピックも狙っている。野村選手は室伏選手とよく似た空気を纏っている。彼は前回も前々回もオリンピック後しばらく柔道から離れた。自分を一度無にしてから再スタートを切っている。4年はどう考えても長い。力を維持するだけでも大変だがそれだけでは勝ち続けることはできない。技術や精神力のほかに柔道力、さらには人間力までを研き、常に高いレベルで戦っている。谷選手しかり。彼女の場合は子供を産み、育てながらの挑戦だ。確固たる自信がなければ進めない。挑み続けるということが何よりすごい。

  プロ野球、セリーグの優勝は中日で決まりだろう。まだまだわからないのがパリーグだ。プレーオフはおもしろい。昨年は千葉ロッテ・マリーンズがプレーオフを制し、アジアチャンピオンにまで上り詰めた。まるで昨日の出来事のようだ。マリンスタジアムのセンターポールには球団旗等と共に、2005年パリーグ優勝旗、日本シリーズ優勝旗、アジアチャンピオン旗の3旗がはためいている。来年は3旗とも取り外されてしまうのか、と思うと寂しくはなるが勝負は時の運、今年の反省を胸に出直しだ。でも、やっぱり3位以内に入ってプレーオフには進出してほしかった。言い訳はしたくないがシーズン前にアメリカで開催されたWBCに主力が7人も出場したのはマリーンズだけだった。ひとりも出場しないチームもあったのに要望のあった7人全員を送り出したバレンタイン監督の度量はすごい。彼は目先の結果だけを見てはいなかった。彼らの将来を、日本野球の将来を見据えての判断だったことは明白だ。選手達にとっては精神的にも肉体的にも厳しい毎日であり、異常なほどの重圧、緊迫感との戦いだっただろうことも想像できる。しかし、あの経験は必ず今後に活きてくるはずだ。本当に強いチームになるのはこれからだ。そういえば王監督の病気もあの時の苦悩、ストレスが原因のひとつだったとしたら、と考えると複雑な思いになる。

  今年はぜひ北海道日本ハム・ファイターズにがんばってほしいと思う。北海道にプロ野球球団ができて3年目。道民の夢の結実は間近だ。いや、結果よりもこれからの1試合、1試合、応援によってチームを支え、チームと共に戦えることの方に意味があると思う。うらやましいがたっぷりと楽しんでほしいと思う。チームは乗りに乗っている。ファイターズはバレンタイン監督と同じアメリカ人のヒルマン監督が率いている。優しい目をした穏やかな監督だ。昨年のマリーンズのように投手陣が安定しているし、打線もここぞという時に爆発する。強いチームはやはり投打のバランスがいい。スター選手も多い。映画スターのようなダルビッシュ有投手、タイガースのJFKにも引けを取らない武田投手、マイケル・中村投手らのリリーフ陣、新人の八木投手の活躍も見逃せない。野手では今季限りでの引退を表明しているSHINJO選手、SHINJO選手の後継者と言われる森本選手、そして主砲の小笠原選手は千葉県人だ。暁星国際高校卒業後NTT関東で活躍、1997年にファイターズに入団した。髭をたくわえた鋭い眼差しは武士のような風貌だ。体は小さいが常にフルスイング、豪快だ。ライオンズファン、ホークスファンには申し訳ないが今年はファイターズと北海道民の年のような気がする。そうあってほしいという願望も含めて、どうか勢いそのまま勝ち抜いてほしい。来年はセリーグでもプレーオフを導入することが決定している。盛り上がるだろうことは間違いない。ますますプロ野球がおもしろくなる。

  日本中の学校、保育園では運動会が真っ盛り。未来のスター選手達が校庭を駆け回り、児童や生徒たちよりもずっと多い家族たちは観戦しながらここぞとばかりに秋を満喫している。よく食べ、よく学び、よく遊び…。秋の3大テーマを実践しているのは子供たちだけか。しかし秋の本当の深さを味わえるようになるには、敬老の日を祝ってもらえるぐらいの年齢にならなくては…。まだまだ年月が必要だ。子供から大人まで、それぞれの秋がそれぞれの表情でやってきた。
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