<百七十二の葉>
フトシ回顧録
千葉島(下)

 フトシ回顧録『千葉島』下の巻において、オレは、普段、何気なく使っている“地名”にスポットライトをあててみようと思う。島と地名にどんな関わりがあるのかって?これがおおいにある。島でなくても、そこに住む人にとって、土地の“名称”である地名は想像以上に重要なものだ。生活とは切っても切り離せないものであり、無意識のうちに“誇り”となって心や体に沁み込んでいるものだ。島民ならば尚更だろう。四方を海や湖、川に囲まれた土地で暮らす人にとって、家にとって、集落にとってアイデンティティーに深く関わってくるからだ。オレは、それを踏みにじられた例を知っている。その事実は、ずっと、オレの腹の中でもやもやと渦を巻いていたのだが、いい機会だ。今編でそれを思い切り吐き出すことにした。

 地名には歴史がある。この国ができてから2千年以上も名が変わっていないという土地すらたくさんあるという。それもそうだろう。普段、生活をする上で地名を変える必要はない。それどころか、地名は生活をする中で、自然に生まれてきたとしか思えない。変更があったのは、支配者が変わったときぐらいだ。それも、首都や大都市に限られ、田舎の小さな町や村の名が変わるということはめずらしかったはずだ。歴史上よく知られた改名としては、信長が“稲葉山城”を“岐阜城”に改めたことや、明治維新で“江戸”が”東京”に改まったことが挙げられる。市町村合併で新しい地名が生まれたことは記憶に新しいが、古くからの呼び名はこれからも残って行くだろう。


 日本や韓国など中国の影響下にあった国々は、地名を中国に倣(なら)って漢字二字で表すようになったそうだ。713年(和銅6年)、朝廷は『好字二字令』を発し、発音はそのままで好ましい字2字で地名を表記するように改めた。2文字の地名が多いのはそのためだ。当然、当て字になることもある。そうなると、逆に漢字から新しい読みが生まれる、等ということも多々あったらしい。誤解から出た読み方や意図的に変えられた読み方もあり、ひとつの地名で複数の表記や発音が競合することもめずらしくはないという。

 島島(とうとう)こんな話まで飛び出して、と思っている人もいるだろう。さて、フトシ回顧録『千葉島』下の巻における本題だ。オレには、千葉県出身者としてどうしても許せないことがある。どう考えても納得できない、いや、納得してはいけないことがある。

 “東京・ディズニーランド”だ。

 千葉県内にあるのに“東京”とはどういうことだ。千葉県民をなめるのもいい加減にしろと言いたい。この“とうきょう”とはどういう意味なんだ!?本当に東京都の“東京”なのか?以下のような文章の略ならば納得でき…発音上気持ち悪いが、無理やりならば納得してもいい。

 『父ちゃんと、兄弟みんなでディズニーランド!』
 略してとうきょう・ディズニーランド。

 『浦安市桃鏡(とうきょう)2丁目ディズニーランド』
 略してとうきょう・ディズニーランド。

 『遠くから来ては驚愕ディズニーランド』
 略してとうきょう・ディズニーランド。

 『東大と京大よりもディズニーランド』
 略してとうきょう・ディズニーランド。

 “TOKYO”ディズニーランドならばよくて、“CHIBA”ディズニーランドならだめな理由とは何だったのだろう。“千葉”という名がはずかしかったのだろうか。“東京”ならば、世界に名が知られているから、なんていう理由だったら納得がいかない。そこまで東京に阿(おもね)る必要がどこにあったのだろう。東京湾沿いにあるから、と言われてもオレの怒りは収まらない。東京・ディズニーランドの住所は、浦安市舞浜1-1だ。“舞浜”(まいはま)だぞ!この美しい地名、洒落た表現に気付かなかったとは言わせない。

 オレは、心底知りたいと思う。千葉県内にありながら、東京という地名を使わねばならなかった理由とは、一体何なのだ。世界に冠するディズニーランドがアジアにやってくるという話が持ち上がったときには、アジア各国が色めきたっただろう。誘致合戦が行われたことは想像に難くない。日本でも多くの候補地があったことだろう。千葉県に来てくれたのはうれしいが『CHIBA』『URAYASU』『MAIHAMA』いずれかの地名を使ってほしかった。

 2001年には、東京・ディズニーランドの横にふたつめのディズニーパークが開園したが、その名称にも東京が使われ、東京・ディズニーシーと命名された。これらのふたつのディズニーパークとディズニー関連ホテルを核に、ショッピング施設などから構成される広大なリゾート施設は東京ディズニーリゾートと呼ばれている。経営・管理・運営はオフィシャルホテルを除き、株式会社オリエンタルランド(OLC)及び、同社の関連会社で構成される『OLCグループ』が行っている。オリエンタルランドは、世界のディズニーリゾートの中で、唯一“ライセンス契約”による経営・運営で、ディズニーの資本が全く入っていない。このオリエンタルランドが「TOKYOと名付けますから」と主張したのか、ディズニーにゴリ押しされたのかは分からない。今後、東京・ディズニーランド、東京・ディズニーシーの名称が変わるとは思えないが、このようなことが二度と起こらないように、知事を始め各自治体の皆さんは、覚悟を持って望んでほしいと思う。


 ついつい言い過ぎてしまったかも知れない。正直なところ、オレは“文句”を言っているのだが、文句をつけるのにもエネルギーが必要だ。本当は、これ以上言いたくはないのだが、もうひとつだけ、どうしてもいわなければならないことがある。

 “新東京国際空港”だ。

 北総に新しい東京?何だ、それは!以下のような文章の略ならば…

 『心頭滅却すれば恐竜も怖くはないぞ、国際空港』
 略してしんとうきょう国際空港

 『慎吾くん、とうとう今日だね、国際空港』
 略してしんとうきょう国際空港

 …何?もういい?分かった。この辺にしておこう。

 海外の空港では“NARITA”がスタンダードだと聞く。“成田国際空港”で十分、かつ、麗しいではないか。羽田は東京都だが、成田は東京都ではないということを知っていた人は、新空港の関係者の間にはいなかったらしい。とにか〜く!他の自治体の褌(ふんどし)で、いや、名前で相撲をとるなんてことは金輪際まっぴらだ。子々孫々のためだ。まだ間に合う。改名を勧めたい。


 オレは、フトシ回顧録『千葉島』下の巻執筆において、少々興奮してしまったらしい。これでは、オレはいったい何者なんだ?ということになってしまう。千葉県から金品等は一切もらっていないということだけは明言しておかねばならない。郷土愛ね、郷土愛。オニヤマがオレに投げかけた島の話は、思わぬ展開を見せたが大変勉強になった。オニヤマに感謝“シマ”くてはならない。あ〜あ、最後の最後でつまんねえ洒落をこいてしまった…。

 これでお“シマ”い。 (了)


※心頭滅却すれば火もまた涼し…無念無想の境地にあればどんな苦痛も苦痛と感じないこと


(C)2010 SHINICHI ICHIKAWA
-------------------
PAGE TOP
目次
ESSAY TOP
BBS
HOME